俺たちに翼はない

*18禁に付き注意
この記事にネタバレはありません。たぶん。

俺たちに翼はない -Limited Edition-

俺たちに翼はない -Limited Edition-


―――大都市「柳木原」
おびただしい数のひとと建物がひしめく、巨大な繁華街。
―――季節は冬。
空を見上げれば、そこには無表情な白い空。
ありがちな悩みとありがちじゃない悩みを抱えた若者たち。
彼らが出会う、恋ともろもろ。
それはきっと何処にでもある、ありふれた物語。

架空の都市柳木原を舞台にした、
一癖も二癖もありすぎる登場人物が織り成す青春群像劇。

 笑ったりにやけたり爆笑したり、ジーンとしたりほろりとしたり、場面によってはドン引きしたり。でも終わった後には「あー楽しかったー!」と心から思える作品でした。

 ギャグが面白いとかキャラ同士の掛け合いが笑えたとか、メインヒロインはもちろん主人公達もサブキャラもみんな最高だとか、どのカップルのやりとりにも萌え悶えたとか、ぶちまけたいことは色々ありますが、個人的に一番魅力的だったのは、圧倒的なライブ感でした。リアルではなくリアリティ。こんな奴いねーよwではなく、こんな奴いるかも、と思わされてしまうというか。

 「あー」とか「その」なんかのつなぎ言葉がいっぱい入った、なかなか要領を得なかったり、時にだらだらと感じられるセリフは、声優さんたちの演技効果(本職のラッパーがいたりとか)もあってかどこか生っぽく、主人公たちの語りかけるような口調も相まって目の前で上演される演劇を見ているようでした。映像化されるんだとしたらアニメよりも実写に向いてるんじゃないかなーなんて思ったり。

 個性的すぎるキャラクターたちも、単に装飾的な口調だけで区別されるのではなく、プレイ後に性格やバックグラウンドがぱっと思い描けるくらい細かく描写されています。ライターさんはきっとそれぞれのキャラに履歴書を作成してあるんじゃないですかねー。そう思うくらいメインからサブまでキャラクターがしっかり立っています。
 例えば、千歳鷲介編のメインヒロイン日和子さんは舞台であるバイト先のアレキサンダーでは最年少(登場する人の中で)なので終始敬語です。しかし敬語キャラというわけではなく、クラスメイトと話す時は砕けた口調で話をしています。
 また、一人のキャラターに対する呼称も多種多様です。人物Aをさん付け君付けなどで呼ぶのはもちろん、A'やエーだったり、ほとんどかけ離れた呼び方をしたり。でも実際呼称ってそういうものだと思うんです。こういった設定の丁寧さがキャラクターに厚みを増し、リアリティを与えているんだなーと思いました。あと、あの数のキャラクターをしっかり裁いているのは本当にすごいです。

 この『俺たちに翼はない』という作品はオンリーワンがいっぱいです。一番楽しかったり一番萌えたり一番笑ったり一番泣いたり。一番がいっぱい。個性的なキャラクターに、カラーの異なるそれぞれの章。一周するだけでも色んな味が楽しめます。一つのことから一つの意味ではなくて、二つも三つも読み取れるので二周目も楽しい。むしろ二周目からが本番かもしれません。

 興味を持った方はぜひ体験版をプレイしてみてください。(公式のプレイ推奨順は2章→3章→1章)本当は買ってみてください、と言いたいところなんですが、テキストのクセが強い(読み難いわけではない)ので、まず体験版での様子見をおすすめします。いろんなレビューでは俺つばは人を選ぶ選ぶと言われていますが、「物語」が好きなら大抵の人は楽しめるんじゃないでしょうか。特に私と同じような雑食系漫画オタクにはぴったりかと。恋愛ADVという枠組みに囚われなければ、むしろ人を選ばない作風だと思います。
 絵が苦手なんだよなーと躊躇している人も大丈夫です。読んでるうちに慣れます。立ち絵は表情豊かでくるくる動くし、髪の色や服装(一部除く)も二次元的な奇抜さがなくリアルよりな世界観にあっています。むしろ毒気が中和されて丁度いいと思うようになるかもしれません。
 ネタバレ踏んじゃったんだよなーという人もいると思います。確かに面白さに影響することは否めませんが、それは俺つばの楽しさのすべてじゃないです。ハードの仕組みを知ってしまってもまだソフトがあります。体験版でテキストやシナリオに惚れこんだ人はぜひ本編もプレイしてみてください。

 一つの作品にこんなに熱中したのは久しぶりでした。面白かったもの泣いたものなど、琴線に触れた作品は何度も何度も読み返してしまうものですが、この作品も今後何度もプレイしてしまうと思います。というか既にしている。
 エロゲをプレイし始めたのはここ2年ほどで、テキストに定評があるライターさんらしいという情報、さらにテキストがいい、ということの意味すらよくわからないままになんとなく3章体験版をやってみたんですが、もうそれだけで十分わかりました。無意味な(に見える)やり取りさえも飽きさせないで惹き込む力がすごかった。