船戸明里「Under the Rose -春の賛歌-」(3)

Under the Rose (3) 春の賛歌    バースコミックスデラックス

Under the Rose (3) 春の賛歌 バースコミックスデラックス

私は今充実した毎日を過ごしています
とても幸せです
神様の素晴らしいお導きに感謝します
あえてこのモノローグを選んでみました。帯のセリフと迷ったのですが、芸がないなぁと思いこちらにしてみました。何となく意味深な気がしますし。
webスピカを購読しているので展開は知っていたのですが、改めてまとめ読みしてみると違った印象を受けました。細切れだとどうしても伏線が追いづらいけど、まとまってると思わぬ所で辻褄が合い、そのたびにぞくぞくします。例えば、表情豊かな登場人物たちはあまり自分の心情を語らないので、その時には何を考えているのか分からないけれど、その後の行動でだんだんと分かってくる・・・といったところでしょうか。3巻の冒頭と終わりを比較すると、雰囲気の違い(というよりレイチェルの心情の差)に愕然となりますが、実際に舞台の上での状況はほとんど変わっていないのですよね。ただ冒頭では何も知らなかったレイチェルがだんだんとロウランドの内情を知っていったというだけのこと。
喜びや希望といった言葉を髣髴とさせるような副題とは裏腹に、物語は悲劇の方向へと進んでいく。まさかこういう話になるとは2巻読了時には想像もしてませんでした。春の賛歌という副題と表紙、帯の聖句から貴族の嫡子と家庭教師の禁断(・・・)の恋!などという今からすればいかにも貧困極まりない発想をしてました。エマ効果が多少あるにしても短絡的すぎますね、反省・・・。ウィリアムは母の。レイチェルはロウランド家の。伯爵は家庭の。登場人物それぞれが何かの幸せを願っているのに、悪い方へ暗い方へと突き進んでいくのがやりきれない。幸せをねがっている何かがみんなバラバラで全体として上手く咬み合っていないからなのか、それとも何かの幸せを願うことそれ自体が他の何かの不幸へとつながるからなのか。もしかしたら両方なのかもしれない。
伯爵とアンナさんの過去話を読んで、ライナスとグレースの関係に似てる、と思いました。というかこの関係性は船戸さんの描きたいテーマの一つなのかもしれない。きっかけはいつも、ほんの些細なことで、歩み寄りさえすれば元通りになるのに、意地を張って、後回しにして、見ないふりをしてほうっておいたら、いつの間にか傷口は広がっていて、もうどうにもならないところまで来てしまったという。グレースと侯爵、ライナスと侯爵、別作品だとガレオンと兄も同じ関係だと思いました。ガレオンの「もう何一つ間に合わない」(うろ覚え)というセリフが象徴してる気がします。
全然感想がまとまってないですね(汗)やばいやばい。最後にウィリアムについて思ったことなどつらつら述べてみます。伯爵に似ていることは彼のジレンマなんだろうなと思いました。彼はある意味アンナさんにとって伯爵の身代わりであって、ウィル自身も望んでその役目を全うしていると思うのだけど、やっぱりどこかでウィリアム自身として見て欲しい。だけど身代わりになることでしか母親の傍にいられない、という。だからアンナさんの「なにひとつ似てやしないわ」というセリフは残酷に思えます。身代わりにされている人からそれを否定する言葉を言われたら、じゃあ僕はどうすればいいのか、という気持ちになるんじゃないかなぁ。あと、ウィリアムがレイチェルに対してあのような行為をするに至ったのは、やはり母親の女の表情(p.211)を見たことがきっかけとなっているような気がします。ゾクッとしてるし。
全然まとまってない感想ですが、書き終えてほっとしてます。とりあえず満足。まだ言い足りない部分もあるし、新たな発見があるかもしれないので、その時はまた感想を書くかもしれないです。